King's Road
鶴見さんがイタリアから帰ってきて、色々と目を見張るモルトが仕入れられているよう。そんな中に久々のTaliskerのTDが。
ご存知の方はご存知のとおり、鶴見さんがBarを始めるきっかけとなったのがTalisker(改めて確認したところ、TDラベルのスクリューキャップの12年物)。クレインでは正しく王道中の王道。そのTaliskerのTDラベルのコルク・キャップが、飽くまで何の気なさそうではあるが目を引かれずにはいられない端正な姿を久々にカウンターの上に現わしている(このシンプルなラベルが得も言えぬ佇まい)。そうなれば飲まないわけにはいかない。
ということでTalisker Pure Malt 12 (TD label / Cork cap)を。
注がれたグラスが前に出される時点で、もうほのかに甘い香りが漂っている。それだけで、心ここにあらず。勝手に自分の中の(行ったことのない)スコットランドへ。
グラスに注がれたモルトの色は、ほんの心持ちほのかにグリーンが感じられる中程度から薄めの琥珀色。濃くはないが艶やかで、いやらしくないしっとりとした色調。
ファースト・ノーズに熟れたオレンジとモルトの甘味が上手く混じった香り。それが、更にビターチョコの香りと交じり合う。次第にスパイス香も立ってくる。
アルコールの立ちがネットリとしながらも軽やかさも交えて演出される。柔らかだけれども、骨格がしっかりしていてしなやか。湿った感じと軽く感じられる焦がした板のフレーヴァーが香ばしくも落ち着いている。
現代的なモルトにあるヌメっとした態とらしい熟れたフレーヴァーの欠片もない。
口に含む。中心にアルコールの刺激がピリッと立つが、同時に柔らかなモルト独特のナチュラルな甘味が優しくそのアルコール感を包み込みながら舌の上にふわりと乗っかってくる。
アフターにはピート香とほのかな苦味が特徴だって感じられる。そして、飽くまで自然で優しいアルコール感がその余韻を支え、喉や鼻腔の奥へ細く長く伸びていくように芯をクリアに持続させていく。
そのクリアで綺麗な余韻の芯がアルコール感そのものに変わっていくことに気付くと、今度はピートの香りがその周りを囲むように包み、それが鼻腔を微かにくすぐっている。
全体的な香りは熟成感たっぷりだけれど、アルコールが生き生きとしていて充分に若々しさも感じられる。
薄曇のスコットランドの空。白黒写真のようなグレーの下、向こうには波立つ海が見える。冷たく柔らかな葉の茂る草原に風が吹き通っていく。だけれども、その風はやわらかい温かさで頬を戯れるように撫でていく。
久しぶりに、こんな気分にさせられるモルト。
チビチビと飲んでも、その一滴に充分にエキスが詰め込まれていて隙が全くない。ただ、隙がないといっても、堅苦しさや息苦しさはなく余裕も感じられ、自由に楽しんでくれという懐の深さもある。
香り、味、余韻のそれぞれの醍醐味を、バランスをとったうえでキッチリと存分に楽しませてくれる逸品。
また、余談ながら、モルトの甘味のひとつの典型をゆっくり味わうなら、同じTalisker の8年もお勧め。
50年代にはこんなモルトが普通にあったと思うと、なんとも言えない感慨。それこそ、当時の当たり前がゆえの王道モルトだったんだろうと。
西郷





