暫く独りに

Bird's Eyeのパターンが軽く入ったメープル・フィニッシュのヒュミドールが脇に置かれる。
そちらに目をやると、鶴見さんが「当然でしょ」という表情で、中から1本のvitolaを差し出した。
前回、モルトのほかにイタリアで購入してきたもの。3本入りのハード・ペーパーのボックスに入っていたやつだ。帰ってきて早々に箱から取り出してみると、カチカチに硬かったのでヒュミドールに入れて暫く寝かせていた例の物。
持った指の力に反発するともなく、しっとりとしたラッパーの質感を伴ってその輪郭が指に伝わってくるような感触が、ちょうど良い具合で指に馴染む。
「ほら、良いでしょ」と鶴見さんが目で訴えかけてくる。
「良い状態ですね」と目で応える。
別に、そんなアイ・コンタクトをしたからといって、デキているわけではない。

 

200904212.jpgTrinidad Robusto Extraに火が点され、いつも通りにギネスが注がれる。
乾いた葉の軽く焦げたような香ばしさがしっとり感をもってくゆる。そして、オイルのような香りが直ぐに追っかけてくる。が、吸い口はとてもマイルドで軽やかな印象さえ与えられる。
ギネスを一口含むとビールの方が全然に軽い。実はガッシリとしたvitolaだと判る。でも、マイルド。
更にふかしていると、若く軽やかな印象の酸味とふくよかな木の香りが感じられる。やや甘めの紅茶の香りも立ってくる。口の中にはオイルと木の香ばしさが交じり合ってふくらみを増したフレーヴァーが漂うように残っている。そのまま長い余韻を楽しんでいると、オイリーさが薄れていき、更に残った木のフレーヴァーが柔らかく心地よい。

全体のフレーヴァーが落ち着いてふくよかになったところで、ギネスを終え次に。
Chateau PauletのTres Vieux Cognacが軽く温めたグラスに注がれる。文字ばかり書かれているラベルには、100年以上というところが強調されている。見掛けもちょっと時代がついたような趣き。
定石ではあるにせよ、シガーとコニャックの組み合わせはちょっと久しぶり。
一応、水で口の中を洗ってから、一口。フレッシュな赤いリンゴの実の瑞々しさと、その直ぐ後を追ってくる熟した洋梨のフレーヴァーのバランスが心地よい。
そのフルーティなフレーヴァーとは対照的にテイストはドライで若々しさも感じられる。そして、ドライだけれども口当たりは柔らかくライト。飲後の余韻はリンゴと洋梨のフレーヴァーが細いが長く続いていく。ちょっと古めだけれど生きの良いカルヴァドスですと出されても、そうかなと思ってしまうような味わいも感じられる。

 

200904211.jpgそんな印象の中、気付くと口の中はコニャックの香りに完全に支配されている。Trinidadがしなやかにしっかりとしたフレーヴァーを残していたのに。
今回は、どちらも軽く柔らかい口当たりなのに、しっかりしている。最初のうちはシガーとコニャックのそれぞれがさり気なく強い個性を際立たせて、その存在感をお互いにアピールしあっていて、その対比が楽しいものだった。それが、ちょっと経つと、シガー、コニャック共々に変化が。

シガーはオイリー感がこなれると、ちょっと湿った枯葉や紅茶の香りが更にはっきりとしてくる。そして、酸味も柑橘系といった性格がくっきりとしてくる。
コニャックの方は、リンゴがやや薄れ、熟した洋梨を残しつつ紅茶のフレーヴァーやチョコレートっぽさも立ってくる。
コニャックをちょっと口に含み、その余韻がたっぷりとしているうちにシガーをふかすと、チョコレート・リキュールのような香りが口いっぱいに広がる。
そして、そこへ更にグラスの中の香りを口に入れるようにコニャックを一嘗めすると、更に甘味のあるチョコレートのフレーヴァーに。フルーツ香も奥にあるので、チョコレートコーティングしたドライフルーツのフレーヴァーのヒントも感じ取ることができる。

これは面白い。
遠くに子供の頃好きだったミルクチョコの味がちょっと過ぎったりもする。その優しく舌を包み込んでくれるほの甘く優しいフレーヴァーは、口の中だけで感じられるだけでなく、体を預けられるようなある種の安堵感もあり、とても心地よい。私はそこに守りと慈しみを感じる。そうだ、それは・・・(云々)。 遠峰一青(演じるは田辺誠一)ばりに「おおオォォッ...見えたぁ...」となってしまう。
そこには、独り遠くを仰いでいる自分がいる。

済みません。
ただ、そのくらい心地よい組み合わせということで。

西郷


2009年04月21日
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