たまには現行品

最近、クレインのカウンターの上で一際重厚感を誇っているものがある。
ラベルは四角を模っていて、唐草模様に似たモチーフがボトルに直接描かれ、色はゴールドで細かい線が模様の中を等間隔に埋めている手の込んだもの。一見、どことなく2000年のChateau Mouton Rothschildを思わせるゴージャスさ。
手に取ってみると、ズシリとした重みを感じる。ボトルの底の部分もぶ厚く、キャップからネックにかけてはボトルより一段厚くなっており、縦に細かく筋を入れられたデザインもの。更に、持ってみるとキャップ自体もやけに重い。とても気合の入った、コストのかかったもの。
どことは言わないが、あるシャンパーニュの有名メーカーが資本を入れてから出たもの。金のかけどころは合っているのか?

そんな外観のGLENMORANGIE SIGNET(700ml、46%vol)、味の方は?
このモルトに纏わることは、GLENMORANGIEのHPや酒店のページを見て頂ければ色々と書かれているが、蒸留・醸造責任者および製造者兼マスターブレンダーのみぞ知るといったところでしょうか。要は、詳細は教えないというスタンス。その代わり、味については、5つのヒントを通して誘導尋問的に色々とのたまわれている(興味のある方は、Netにてご参照下さい)。

 

200910032.jpgさて、ただ飲んでも面白くないので、ボトルチェンジになる前の最後の18年物(700ml、43%vol)と飲み比べることに。

と、ここから先は、テイスティング・コメントがメインになってしまうので、先に主文を。
早い話、色々と考えすぎて、つまらないものが出来てしまった、というのが正直な感想。
カラメルかと思わせる甘みはベタついて、後に苦味がある。アルコール感は骨格を作るでもなく単なる刺激にしかなっていない(ベタつくフレーバーを早めに飛ばしてくれるという効果は、確かにあるが)。濃い色から想像される余韻は全くなく、やや化粧臭さも。
何を作りたかったのかと、飲んでいるこちらが、ただ不毛な疑問を抱くだけ。それでも、これだけのものを飲み手に提示してきている。しかも、偉そう。
ただ、飲み終えて、ふと思うことがあった。

グラスに注がれた外観。SIGNETはとても濃い。焦げる手前の飴色。照りあるもので、傾けたグラスに反射する光の輝きは艶がある。それに対して18年の方は、やや薄めで、ゴールドに近い感じ。グラスに注がずともボトルを見れば一目了然だが、明らかに樽が違うことは分かる(樽だけかな?)。
香りを嗅いでみる。SIGNETの第一印象は、ミルクチョコレートやコーヒーの香り、花の蜜のような甘い香りには中心に焦げたような苦味がある。そして化粧臭さが全体に漂っている。シェリー系の甘い香りもあるが、アルコール感が強めに出ており粗さを感じる。過熟気味のうらぶれた印象が拭えない。
香り自体は重厚感を狙っているのが分かるが、鼻先で香りが立っているだけで、鼻腔の奥では単なるアルコールの刺激だけが残り、伸びやかな余韻が全く感じられない。言い方を変えると、アタックはあるが、それでお終いといった感じ。軽やかでライトといえば聞こえは良いが、薄っぺらともいえる。
18年の方は、薄く化粧臭のニュアンスは感じられるが、麦の香りが主役となっている。アルコールの刺激はやや強めだが、立ってくる香りは、ブレのない麦の香ばしさとほのかな土のニュアンスが感じられる。SIGNETとの明確な狙いの違いが面白い(いや、SIGNETの狙いが違う)。ただ、ちょっと奥行きが感じられないのが残念。

 

200911033.jpgそして、味。
口に入れた瞬間、シェリー樽に由来する甘みがベタッと感じられる。が、直ぐにアルコールの刺激がやってきて、ベタッと感をスッと消していくかに感じられる。続いて焦げた樽の香りが苦味を伴って舌の上に立ってくる。ミドルは単なるアルコール感だけが品もなく俗っぽくいらっしゃる。ウ~ンと思うと間もなく、切れ良く、余韻らしい余韻も残らないまま消えていく。敢えて探すと、仄かなチョコレート香が鼻腔の辺りを漂っているのが確認できる。やっとドライオレンジのようなニュアンスも感じられるか。
暫く時間をかけて飲み進めると、ミドルのアルコール感が落ち着くと舌にまとわりつくような甘みが主役となっていることに気付く。その甘みは、甘みの周囲に樽の焦げた苦味を纏い、それが消えていくと甘みのニュアンスは残しつつもケミカル感が顔をだす。
こう書くと、ちょっと長いフレーバー感にも感じられるかもしれないけれど、それほど長くはないので、18年に移る。
比べると、最初の含みは、品の良いしっかりとしたウィスキーらしい甘みが舌の上に乗ってくるのが感じられ、アルコールの刺激が喉の奥をくすぐるよう。そのアルコール感が落ち着くとリンゴのようなフレーバーが感じられる。ややケミカルなところはあり、バランスを欠くのは否めないか。また、余韻となるフレーバーも口内で上下に分離してしまう。リンゴとケミカル感が上下にいるような感じ。
少し多めに口に含むと、焦がした樽のフレーバーが強く出て、印象が変わる。アフターはそれほど長くはないが骨格はシッカリしている。ただ、深みや奥行き感については、まだちょっとといったところか。

そして、ふと思う。
SIGNETと18年は樽からして違うはずなので、全然ニュアンスが違うのは仕方ない。ただ、GLENMORANGIEの個性たる軽やかな甘みや、それと併せ持つしなやかさは18年の方がイメージに合うかも。
それはそうと、文字にしてみて改めて思うのは、SIGNETについてコメントした言葉は、奇しくも1963年に近い言葉かもしれない。
GLENMORANGIEが得た大傑作1963年。22年熟成で最後の1年強はオロロソのカスクで寝かされていたもので色も濃い。アルコール度数は43%vol。フレーバーにはチョコレートやフルーツ、花のようなニュアンスも感じられた(これはこれで、別にコラムの題材にしたいですね)。もしかすると、あながち狙いはそっちを見ていたのかも。ただ、これを飲んでも63年は見えないし、63年を飲んだら、これを飲みたいとは。
思いたくもないが、だとすれば、的を大きく外しきった感は否めない...

1963年は、どんなに目を細めても、微かなその姿さえ遠くにいってしまって見えない...

か。


西郷


2009年11月03日
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