プルーストはマドレーヌ

さて、前回のコラムは...
若さの残る95年物と、樽熟成の特徴をキッチリとみせてくれた92年物のテイスティング。

ヴィンテージ的には3年しか違わない2つのボトルを通して、「樽熟成する/しない」というのはこんなにも酒質に違う側面を与えるものだ、ということをあっさりと見せてくれたことに改めて驚きながらも、嬉しくなってしまう自分がいた。
好き嫌い、飲み易いかどうか、とは違う次元で面白みをボトルの中に表現してくれるLevi翁の茶目っ気に酔ってしまったわけで...

で、次は当然もうちょっと遡ってみることになる。というわけで、ヴィンテージは進んで80年代。

Grappa delle Donne Selvatiche Riunite a Bergamo 82年 52゜
"Donne Selvatiche Riunite a Bergamo" の英訳が "Reunited Wild women to Bergamo" となるようで、日本語にすると「Bergamoに再統合されたお転婆さん達」とでもなるのでしょうか。Bergamoというのは、ロンバルディア州にある県のよう。


201004272.jpgWikipediaから抜粋すると、「11世紀に自治都市となり、12世紀にはロンバルディア同盟に加わり、1815年ウィーン議定書に基づきオーストリア領となることが確認された。1859年、ジュゼッペ・ガリバルディによって征服され 、1861年に成立するイタリア王国に属した。」となっている。
LeviのあるNeiveがお隣のピエモンテ州なので、Bergamoに何か思いがあるのか?
それとも全然違うところに意味、思いがあるのか?

分からないことはさておき、飲み手は飲み手なりに勝手にグラスの中に思いを馳せることにする。
注がれた液体の色は、黄色みの良く出た黄金色。やや薄めな色調ながらもグラスの側面を伝う脚からはしっかりとしたエキス感が見てとれる。良い艶具合。
ちょっと妖艶な、果物の熟れた香りに溜め息が出る。
しかし、その反面、糖とハーブが混じりあったような柔らかい清涼感も感じられる。香り全体がうまく絡みあい、しっとりとゆっくり染み渡るように柔らかく広がっていく。今回の3つの中でもっとも柔らかく滑らかな触感(流石の80年代!)。

今となってはRomano Leviはクレインの顔として、モルトと同様になくてはならないものとなっている。
ただ、前回のコラムでも触れたように、そんなRomano Leviもクレイン・デビューの時は、「何か、良さそうだよね」というところからは外れない範疇でカウンターに立っていた。その後のお客さんのオーダーの流れを一気に変えたのは間違いないが、それもこれも、全ては最初のボトルの封を切った後の話し。
開けるまでは、「ラベル、全部手書きなんだ」とか「イタリア語分からないよね」「字が読みずらいし...」「1980って書いてある」などなど。期待もあれど、どちらかというと外見への興味の方が勝っていた感じだったか。
無造作に破られた紙片に手書きで書かれたアバウトなラベル。イタリア語は分からないので、Grappaと書かれているのが分かるのみ。数字で書いてある容量やアルコール度数は予想のつくもの。
同様に、ラベルの左脇に縁に沿って下から上へ向かって小さく"Romano Levi 1980"と書かれた文字がヴィンテージを表わしているだろうくらいは想像できた。
今となっては、Romano Leviといえば当然に思われていること(いまだにイタリア語が分からないことも)でも、初めて見た時は「へぇ、こんなのもあるんだね」という感じ。
そして、80年代以前に見られる、よれた赤いキャプシールが巻かれたどこなくいびつな瓶は、期待を持たせるには充分なものだった。

 

201004271.jpg詳細は覚えていない。
確かその日はカウンターの奥の方に座っていたと思う。その前に何を飲んでいたかなんて...
特に何ともない雰囲気で、試してみたいからという鶴見さんのいつものノリで封を切ったはず。グラスに注がれたグラッパにはややトロみがあった。柔らかいが、葡萄のエキスがギュッと入った香り。
初めて口に含んだ時、モルトにも勝さる劣らずのシルキーな舌触りと、優しい温もりのような温度感。
「ウマイッ!」と皆が口にしたのは、想像に難くないでしょう。
「次は、これです!」(こんなニュアンスのこと)
と鶴見さんが言ったのが、事の始まり。それが、今では棚も増やして、かなりの数のボトルが並んでいる。

そんな昔話もちょっと思い出したりする。そんな香りと思い出の余韻に浸りながら、件のグラッパを口に含む。
糖とハーブの入り混じる甘美さが舌の上全体にをゆっくりと滑らかに広かっていく。ヴィンテージが進んでいるわりにアルコール感がしっかりしていて甘味の底を支えているため、ダレることなく細く長く余韻が続いていく。時間とともに蜂蜜のようなフレーヴァーも立ってくる。
全体的に大きく立ち上がってくるタイプではないが、しなやかさを保ったフレーヴァーが喉の奥に流れていくのを追っていくと、品の良い味わいが余韻へと変わっていく様がじっくりと感じられる。
派手さはないが、とても滋味深くバランスのとれた完成品。ラリックのガラスのような繊細さと柔らかさが湛える質感のよう。

あぁ、至福のひと時。
美味い酒の良いところは、至福が一瞬じゃないところ。


西郷


2010年04月27日
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