Mull of Kintyre
"Mull of Kintyre"といえば、Paul McCartney。
ちょっとしたポップ/ロック・ファンであればそうなる。John派/Paul派の派閥争いの外にいる自分でもそうだから、多分、間違いない。
どこにいても、心はいつもMull of Kintyre(キンタイア岬)に帰っていく(Paulは、ここに農場を持っているらしい)といった感じの郷愁の歌は、スローなワルツと中盤から奏でられるバグパイプ(Campbeltown Pipe Bandの演奏)の音と相俟って、イギリスには全然関係ない日本人にまでも、どこか懐かしい感じを抱かせる。
派手でもなければキャッチーでもない、どちらかといえば地味目の落ち着いたこの曲が、当時、6週連続1位を記録し、16年ぶりにシングルのセールス記録を更新したという事実からも、当の英国人の郷愁をそそるに充分な曲だったのだろう。
"Mist rolling in from the sea"とか"Sweep through the heather like deer in the glen"といった歌詞の一節からは、たなびく鉛色の雲の下、ヒースが強い風に波を打ちながらなびいている景色が思い起こされる。
で、それを勝手にスコットランド独特の景色と思い込んでいるわけだが(多分、そんなんでしょう)。
Campbeltownの町があるのは、キンタイア岬(Mull of Kintyre)の手前。キンタイア半島のほぼ先端近く。
そのCampbeltownにある蒸留所といえば、Springbank。
Springbannkといえば、種類も多く、日本向けとかそういった類のものも結構出していたような覚えがある。
そんな中、クレインでのSpringbankとなると、どうしてもWest Highland。その名品ぶりを「くぅ~ッ」とか唸ること(唸るしかなかった...)で賞賛しつつ飲んでいたのが思い起こされる。ただ、それも今は昔(今もボトルはあるが、おいそれと手は出せない...)。
しかし、別にWest HighlandだけがSpringbankではない。種類も多ければ、美味い物もあ
る。近年の物でも、そこそこいけるものもあったりする優良銘柄だったりする。
今回は、ペア・シェイプとかオーヴァル・ボトルと呼ばれる70年代前半頃のボトルの12年、15年、21年の飲み比べ。
先ずは、12年。
色は、オレンジの差した琥珀色。クリアな色調で、濃さは中程度といったところ。粘度はあまり強くない。
香りをかいでみる。白胡椒のようなスパイス感や、やや湿った木の感じが最初に感じられる。黄色っぽい色の果実の香り。レーズンのような生っぽい感じもやや受ける。全体の香りのバランスは良く、香ばしさもありながら、落ち着いた感じでもある。
口に含む。熟成したモルトの甘味が、木の焦げたような薫るフレーヴァーを伴って舌の上から立ち上がってくる。ほど良いアルコール感が輪郭を形作っている。そのアルコール感が馴染んでくると、舌の上にはグラニュー糖のようなクリアな甘味が残っていることに気づく。
落ち着いているのに、切れの良いもの。樽感もしっかりとしてるが、他の要素とうまく調和している。また、飲後、喉の奥にアルコールのニュアンスが長く残る。
順番に次は15年。
色は、オレンジ~やや赤みを帯びた琥珀色。クリアーで、12年よりやや濃いめ。粘度は12年同様にあまり強くはない。
香ると、強く出ている熟成香が、何しろ最初に鼻の中に太く入ってくる。12年にも感じられたレーズンのような生っぽい香りが強く出ている。オレンジ色の果実が熟したような香りや熟成した茶葉(中国茶系)のような香りに加えて、ほのかな果実の酸のニュアンスも感じられる。次第に中国茶から紅茶の香りに変化していくよう。全体的には、熟成感が中心に置かれた、落ち着いたもの。
グラスを傾けると、先ず柔らかい当たりで口の中に入ってくる。続いてアルコールの刺激が追ってくる。輪郭のハッキリとしたものではるが、飽くまでも柔らかく舌の上、口の中を転がっていく。当たりがソフトで香りも落ち着いている印象を受ける反面、舌の表面にはアルコールの刺激やミネラル感をダイナミックに感じさせ、溌剌とした印象も同時に受ける。
余韻には香りに感じられた中国茶のようなフレーヴァーも残り、アフターの出方としては、喉の奥から熟成香が戻り香となって返ってくる。
最後に21年。
色の出方はこれだけが違い、琥珀がかった黄色。色調はクリアーで薄め。薄めのお茶のようにも感じられる。粘度はやや弱めではあるが、12年、15年に比べると強めに出ている。
香りは、白っぽい果実がやや熟成したような甘さが軽やかに香る。白胡椒のスパイス感、湿った木のようなニュアンスにライトな熟成感(白ブドウのレーズンのような)がそれぞれ感じられる。そこに黄色っぽい果実のフレーヴァーも出てくると、白胡椒と木の香りがうまく絡みあって複雑さが増し、軽やかに香るが奥行きが感じられる。
口当たりは、さらりとしながら柔らかいもので、舌の上に優しく乗っかってくる。アルコールの刺激が良いアクセントになっているが、舌に馴染むように味わいが入ってくる。
香り同様に、スパイス感の軽やかなフレーヴァーが木のフレーヴァーとうまく混じりあい、3つの中で最もこなれたものとして感じられると同時に、若々しさもある。
香りの要素が全て味わいの中に染み込んでいるよう。味の切れは早めだが、アルコールの刺激が口内に長く残り、それが土台となって若い果実の芯にある蜜のようなニュアンスと共に、しなやかで品の良い余韻を作っている。
3つを比較して試してみると、21年だけがやや性格を異にしているようではあるが、時間と共に21年も熟成感が膨らみを増し、それぞれが、それぞれに軽やかさと落ち着きをうまく表現している。
滋味のあるこれらのボトルは、Paulでなくとも、Kintyreにある街角に心を持っていかれるような思いで飲める一杯かと。
西郷





